『パパのやり方』作品レビュー
邦題:パパのやり方
英題:Paternal Rites
監督:ジュールズ ロスカム Jules Rosskam
82分|2018年|米国|英語
web:https://www.paternalritesfilm.com/
あのときの、恐怖、無力感、孤立、怒り、混乱。
世界が色を失くしたり、ノイズばかりが頭に響いたり、身体がバラバラになってしまうような、あの感覚。
性暴力サバイバーのセルフドキュメンタリー作品には共通した要素がある。あのときの、あの「感覚」を伝えたい。目撃者はなく、自分に刻まれた記憶だけで、誰にも理解はされないことを伝えようとする青い炎が見える。
ミーティングで出会ったなかまたちの語りが聴こえてくる。
これは、ロスカム監督自身の物語であると同時になかまたちの物語。
「そんなことが起きるわけない」と思うあなたには届かないだろうけど、サバイバーたちはこうやって足跡を残していく。
この映画は観る者を混乱させる。愛情、信頼、復讐、の向かう先が、混乱している様子がそのまま描かれている。
誰から被害を受けたのか。
誰に怒りを感じるのか。
誰に責任を問うのか。
混乱し、葛藤する過程を、観客は共にすることになる。
その過程を、よく「サバイバーは嘘をつく」と言われる。
そう言い放てるあなたにはサバイバーの見ている風景など永遠にわからないだろう。
人の心には幾重にも層があり、それは、あまりに複雑に入り組んでいる。
降り積もる真っ白な雪はただただ美しいけれど、重なりできた硬い氷の刃は、内側からサバイバー自身を切り刻んでいく。
答えがほしい、答えが、ほしい。
その答えを知るのはとてもこわい、のに。
もしかしたら、答えがないことなのかもしれないのに。
真正面から手紙を読むジュールズの表情に、私たちは逃げ出したくなる。
もう闘わないで、と祈る気持ちと勝ち抜いてほしいと思う気持ちが錯綜する。
たどり着いた、出発点でもある終着点から見える景色が、多くのサバイバーに届く。
いつか、雪はとけて春になる。
屋嘉比優子
『パパのやり方』作品レビュー
パパのやり方
►9/23(月・休) 10:10 すてっぷ(上映後に、シネマカフェあり)
►10/19(土) 15:25 西部講堂
ジュールズ・ロスカム監督特集
・ジュールズ・ロスカム監督 経歴
・特集解題(ひびの まこと)
【特集企画】シネマカフェ
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【ロスカム作品 一覧】
- トランスペアレント(61分/2005年)
- フィッツジェラルド、ここに眠る(25分/2007年)
- トランス物語に抗して(61分/2009年)
- クィアな仲間の作り方(85分/2012年)
- パパのやり方(82分/2018年)
- 思いっきり泣くこと(13分/2018年)
- Dance, Dance, Evolution(18分/2019年)
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