13thKansaiQueerFilmFestival2019
『フィッツジェラルド、ここに眠る』作品レビュー

親しき仲にも差異はあって、ときにはやんわり言ってあげるのもよいかもしれない

遠藤まめた

邦題:フィッツジェラルド、ここに眠る
英題:F Scott Fitzgerald Slept Here
監督:ジュールズ・ロスカム/Jules Rosskam
   61分|2009年|米国|英語

友達は今日もくすくす笑ってる。主人公のおれと友達はクィアな仲間。とりあえず人間のダメな部分をぜんぶ晒しても許してもらえそうな関係で、酒を飲んだり下ネタをかましたり、毎日たのしくやっている。おれからみた友達は似た者どうしだけど、友達からみたおれは、けっこう白人。友達の肌は黒いから、見た目でずんずん判断されて、おれの肌は白いから、白人なんてことは考えない一一。

ロスカム監督の本作品は、クィアのコミュニティにおけるちがいの問題を扱っている。ひとくちでクィアとかLGBTとか言ったって、社会的に男性として生きられる人と女性として生きられる人、どっちか分からないとみなされる人では毎日どのトイレに入れるかでも事情がちがう。社会的に女性である人は、男性の7割ほどの賃金しか得られない。日本で暮らしていると、日本人は自分の国籍について考えることもないけれど、そうじゃないクィアの人たちもたくさん日本には暮らしている。

この映画評を書いている私は先日、東北地方で働く外国人技能実習生のトランスと知り合った。日本ならトランス差別も母国よりマシで、身体を変える治療もできると信じて彼はやってきたけど、いまは毎日ひたすら貝をむきまくっているらしい。平均的な外国人技能実習生の月給は10万円すこし。そのうち3万円が光熱費として差し引かれてしまう。胸を取るのには60万円くらいはかかるよ、と言ったら彼はことばを失っていた。

いうまでもなくクィアないしLGBTのコミュニティにも、社会的な強者と弱者がいる。友達の多い人も少ない人も、大卒の人も中卒の人も、お金のある人もない人もいる。当事者どうしの間にもパワーバランスがあるから「みんなちがって、みんないい」みたいな牧歌的なフレーズは、結局のところ集団内の「でも、私はあなたとはちがうんですけど」という声をかき消してしまう。まぁ、そんなことを言っても友達や恋人との関係は続いていくもので、みんなくすくす笑ったり落ち込んだりしながら、今日も明日も暮らしていくんだろう。親しき仲にも差異はあって、ときにはやんわり言ってあげるのもよいかもしれない。憎めない友達どうしなら、案外なんとかなるんじゃないかしら。




遠藤まめた
1987年埼玉県生まれ。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけにLGBTの子ども・若者支援に関わる。10代から23歳までのLGBT(かもしれない人を含む)のための居場所・にじーず代表。著書に「先生と親のためのLGBTガイド 〜もしあなたがカミングアウトされたなら」(合同出版)「オレは絶対にワタシじゃない トランスジェンダー 逆襲の記」(はるか書房)ほか。
【バラバラに、ともに。 遠藤まめたのホームページ】


『フィッツジェラルド、ここに眠る』作品レビュー

親しき仲にも差異はあって、ときにはやんわり言ってあげるのもよいかもしれない
遠藤まめた

無邪気にも白人特権を自然と享受するポール
ひびの まこと


ロスカム作品レビュー一覧


フィッツジェラルド、ここに眠る
►9/21(土) 16:35 すてっぷ 『クィアな仲間の作り方』と同時上映)
►10/20(日) 18:05 西部講堂 『トランス物語に抗して』と同時上映・クロージング企画)


※日本語字幕をオンにしてごらん下さい。
  • フィッツジェラルド、ここに眠るスチール
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