13thKansaiQueerFilmFestival2019
『思いっきり泣くこと』作品レビュー

成長するにつれ、人前で泣くことに抵抗が生まれていった

Sunao akito

邦題:思いっきり泣くこと
英題:Something to Cry About
監督:ジュールズ・ロスカム/Jules Rosskam
   13分|2018年|米国|英語
web:https://www.julesrosskam.com/something-to-cry-about/

映画を観て涙を流す3人のトランス男性。一人はセックスクラブを中心にした人々の映画、一人は父親と心で繋がりたいと思っている人の映画、一人は父の死を悲しむ兄弟の映画…。彼らがそれぞれその映画を選んだのには、自分の経験や背景と重なる部分があり、共感できる背景で「泣きたい」と思ったのだろう。

映画の後に、彼らがそれぞれ「泣く」ということについて語り出します。彼らの話を聞き、自分自信も「最近いつ泣いたのだろう?」と考えたら、思い出せないくらい泣いていないことに気がつきました。ましてや「思いっきり泣いた」のなんて、はるか昔のことでしょう。
子どもの頃は、転んでは泣き、怒られては泣き、喧嘩しては泣き…泣いて感情を放出させていました。それがいつしか「泣かないで我慢!」と諭され、無意識のうちに「泣くことは恥ずかしいことだ」と思うようになっていきました。そうやって成長するにつれ、涙を流さなくなり、人前で泣くことに抵抗が生まれていったのでしょう。

でもよく考えたら、泣くことは悪いことではないですよね。自分の過去を振り返ってみたら、思いっきり泣いた後は、疲れてぐっすり眠れました。そして起きた時には、心がすっきりとし、不思議と感情がリセットされた経験を思い出しました。泣くということは、案外気持ちが良いものです。涙を我慢することよりも、泣いた方がストレス発散にもなり、心の浄化にも繋がるのかもしれません。悲しかったことも、傷ついたことも、思いっきり泣いたことによって、ポジティブになれたこともありました。
また「映画を観て泣く」ということは、ある意味、故意的に「泣く」きっかけをつくるということでもあります。大人になって泣けなくなった私たちには、理由をつけて泣ける場所でもあり、心をすっきりさせるよい機会なんだと思います。

最初にこの映画を見た時に、「作者が伝えたいことは何だろう?」と考えたけれど、なかなか答えが出てきませんでした。「トランス男性がテレビの前で泣いている姿を撮影した映画」が伝えたい意味はなんだろう?と…二、三日考えました。
正解はわかりませんが、大人になって泣いていいんだ。男性でも泣いていいんだ。そして人前で泣いてもいいんだ。思いっきり泣いていいんだ。ということなのでしょうか?

「泣く」ということの大切さに気づかせてくれた作品です。
誰かの目を気にすることなく、久しぶりに、思いっきり泣きたくなりました。




Sunao akito
FTMマガジンLapH代表
FTMトランスジェンダーをモデルに起用したライフスタイルマガジンLapH(ラフ)の制作や交流イベントを企画しています。
https://laph-ftm.com/




ロスカム作品レビュー一覧


思いっきり泣くこと
►9/22(日) 12:20 すてっぷ(トランス短編集で上映)
►10/20(日) 11:10 西部講堂(『僕らの未来』と同時上映)



思いっきり泣くことスチール


ジュールズ・ロスカム監督特集

ジュールズ・ロスカム監督特集 まとめページ
ジュールズ・ロスカム監督 経歴
特集解題(ひびの まこと)

【特集企画】シネマカフェ
【特集企画】ロスカム監督記念講演
【特集企画】クロージング企画
【関連特集】日本のトランス男性と映画

【ロスカム作品 一覧】



♦日本語の作品を含め、全ての上映作品に日本語字幕が付きます。
♦ステージ上での全てのトーク・講演に、手話通訳がつく予定です。
♦Some non-English films will be screened with English subtitles. Please visit our subtitle information.

サイト検索


SNS

 Twitterロゴ Twitter

 Facebookロゴ Facebook

 インスタロゴ Instagram

 KQFFロゴ 映画祭ニュース

 KQFFロゴ 公式ブログ


ページのトップへ戻る