16thKansaiQueerFilmFestival2023

関西クィア映画祭の歴史 (第1回から第12回まで)

関西クィア映画祭実行委員会




 関西では、「東京国際レズビアン&ゲイ映画祭 in京都・大阪(1996年~2000年)」や「セクシャリティ映画祭(2000年)」が以前にはありました。関西クィア映画祭 (KQFF) は、これらとは組織的なつながりのない形で、2005年に始まりました。

●映画祭の立ち上げ

 2000年に、関西の一部のゲイ活動家が中心となって「大阪レズビアン&ゲイ・パレード」の開催を呼びかけ、関西のセクマイ系コミュニティーで大問題になる事件がありました。これは、パレードの名称や代表者、開催時期、目的などの重要な事項を、数人の人たちだけで集まって勝手に決めてしまった閉鎖的独裁的な手法と、「レズビアン&ゲイ」という同性愛者中心主義 (バイセクシュアルやトランスジェンダーの二級市民扱い) が問題となった事件です。大きなイベントをしようという人たちが、間違った手法と目的で動いてしまったため、関西のコミュニティーには不信と分断が作られてしまい、パレードを含む大きな企画を開催することが困難になってしまいました。
 この状況をなんとか打開して、関西でもセクマイの運動を大きく作るために、原則的な手順を踏んで作られたのが映画祭でした。最初の言い出し人である木村真紀さんは、関西で活動する考えられる全てのグループや個人に広範囲に参加を呼びかけ、だれでも参加できる公開された形で第1回目の実行委員会を開催しました。そこでは、特定のセクシュアリティーを優遇せず、また「関西らしいね」ということで、「Queer」という言葉を使い「関西QueerFilmFestival」を開催することに決まりました。
 第1回目はとにかく開催することが目的でしたが、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭 (TILGFF)の強力な支援も得て、約1200名の来場で開催できました。映画はほとんどTILGFFから字幕とともにお借りしたのですが、関西在住の浪速ビニィル監督の『まんこ踊り』や、インターセックスをテーマにした『ビーイング・ノーマル』、そしてトランス映画の『ロバート・イーズ』などは、関西独自プログラムとして上映しました。

●トランス映画を探してみた(第2回)

 第2回目は、トランス映画を自分たちで探したことと、試写を丁寧に行ったことが特徴です。TILGFFではトランス映画の上映が少ないので、「本当にトランス映画は存在しないのか?」と独自で探したところ、世界には「トランスジェンダー映画祭」もあり、日本に紹介されていないだけでたくさんのトランス映画があることがわかりました。また、前年は試写が不十分な状態で上映作品を選んでいたのですが、映画祭を開催する立場としてはそれはひどいということで、この年から試写には英語などの分かる人を必ず手配して、逐次通訳をしてもらいつつ皆で試写する形が、定番になりました。自分たちでトランス映画を探して沢山上映したので、この年の独自プログラムは作品数では半数を超え、またそれに伴い日本語字幕の作成も始めました。一部の実行委員たちが「京都★ヘンナニジイロ祭」を開催したのも、この年です。
 短編映画『Pimp & Ho: Terror In Pansy Hills』の邦題を『オカマ♥殺人事件』にすることになったのですが、「オカマ」の用語は傷つく人がいるとしてこの邦題に反対する実行委員がおり、議論になりました。自身の映画祭名にQueerと掲げていることもあり、結局「オカマ」を使う事になりましたが、その時の議論の経験は、この年の実行委員長の開会挨拶にも反映されています。

●「タイヘン×ヘンタイ」(第3回・第4回)

 第2回での邦題における「オカマ」をめぐる議論を発展させる形で、第3回からは映画祭の名前を「関西クィア映画祭」に変更し、また、第3回映画祭のキャッチコピーを「タイヘン×ヘンタイ」としました。上映作品も、TILGFFからお借りする作品はあるものの、基本的には自分たちで探す形になりました。そして、非常に充実したトランス映画を揃えることができました。
 この年はノルウェーからハングリーハーツというレズビアンが中心となったグループが映画とともに来場し、素敵なショーを披露してくれました。しかし、会場であり共催であるヘップホール側と十分な打ち合わせをせずに話を進めてしまったため、ご迷惑をお掛けし、不信感を与えてしまいました。また、実行委員会内部の人間関係のトラブル(及びハラスメント事件)が開催3ヶ月前に発生し、一時期開催が危ぶまれる事態にまで陥ったことも記しておきます。
 翌第4回は、前回のトラブルの影響もあって開催を半年遅らせ、2009年1月開催でした。第3回のキャッチコピーであった「タイヘン×ヘンタイ」も、映画祭それ自体の冠コピーとして今後も継続して使うことにしました。映画祭本体とは別にプレ上映会も開催し、また日本語字幕の貸し出しも増えるなど、映画祭以外の場での映画の上映機会を増やすこともできました。『百合祭』の浜野佐知監督のトークで幕を開けた映画祭は、トランス映画も増え、また約1500名の集客を得るなど成功裏に終わりました。ただ映画祭後に、会計担当者の100万円を超える横領事件があったことが残念でした。

●京大西部講堂でも開催(第5回)

 第5回からはHEP HALLに加えて京大西部講堂でも開催し、特にオールナイト上映が好評を得ています。誰でも一度は行ったことがある有名なファッションビルにあるHEP HALLは、立地も含めて、誰でも参加しやすい敷居の低さが特徴です。西部講堂はテント芝居やパンクロックなども含めたアングラ文化の拠点でもあります。2会場それぞれの特徴を生かすことで、映画祭の幅を広げました。この年はクィア映画に詳しい英語も堪能なスタッフがいたため、充実した上映作品と充実した映画祭パンフレット(日英併記)を作成しました。その裏表紙は漫画家の新井祥さんに描いて頂きました。また朝鮮学校を描いたドキュメンタリー『ウリハッキョ』を上映したことも特徴です。これは、一部団体が京都の朝鮮学校に押しかける事件があったことなどを踏まえての企画でした。
 独自上映の作品を増やすということは字幕作成も増えるということで作業量も増大するのですが、上映会場・上映日・作品数などの規模の拡大にスタッフ力量が追いつかず、広報が十分に出来なかったために、大幅な集客減と大幅な赤字になってしまいました。また西部講堂での打ち上げ時、当日スタッフで来ていたKによる暴行事件が発生しました(今後Kが映画祭に関わることを公式に禁止)。

●まんこ山盛り(第6回・第7回)

 第6回で特筆すべきは『TOO MUCH PUSSY!フェミなあばずれ、性教育ツアーで大暴れ』でしょう。映画上映後、大阪ではまんこについてのスタッフトーク、京都ではストリップショーを行うなど、盛り上がりました。この作品を見て、その後映画祭のスタッフになった人もいます。「TOO MUCH PUSSY!」の邦題は直訳では「まんこ山盛り」ですが、この映画を見てほしい客層を遠ざけないために「まんこ」の用語の邦題での使用は避ける決定を実行委員会としてしました。またこの年は「関西クィア通信」というミニペーパーも発行したり、共同代表によるウェブテレビの試みなど、新しい試みを行いました。浜野佐知監督の『百合子、ダスヴィダーニヤ』の上映もこの年です。充実したスタッフ体制の中で、収支もトントンまで持ち直し、映画祭の継続にめどをつけた年でした。
 第7回では、各会場毎に異なる特別企画を初めて実施しました。大阪では「すぎむらなおみさんトーク&KQFFオフ会」として観客同士で話す機会を作り、京都では「日本のレイシズム—朝鮮人差別への無関心」としてスタッフが撮り下ろしたドキュメンタリーを上映、レイシズムについて議論する時間を設けました。また、パンフレットの表紙を漫画家の森島明子さんにお願いし、魅力的なイラストを描いて頂きました。

●『罪なき罪—クィアと身体障害』の上映とベルン監督の来日(第8回)

 プログラム担当者が代わり、女子系作品や中東作品が充実したのが第8回の特徴です。また『罪なき罪—クィアと身体障害』の上映とベルン監督の来日も、特筆すべきでしょう。クィアな障害者に会いたいという監督の希望もあり、要約筆記による、ろうの来場者への情報保障も行いました。空き時間に来場者が漫画や本を読んで時間を過ごせる空間としての「はしも図書館」設置や、写真展「わたしの○○○」も開催するなど、企画にも奥行きが出てきました。

●初の、豊中の「すてっぷ」での開催(第9回)

 第1回から会場としていたHEP HALLの運営方針が変わり、会場を豊中のすてっぷに変更しました。また第1回から実行委員会に参加していたひびのまことがこの年は実行委員会に参加せず、西部講堂での開催もなく、これまでとは雰囲気が変わった回になりました。特筆すべきは、上映会場の横に、来場者同士で交流することのできる部屋を用意し、そこで各種展示や映画の感想を述べあう企画を行ったことです。またこの年より、情報保障を目的として、日本語作品に対しても日本語字幕を付けることを実行委員会の方針としました。会場をすてっぷの1会場のみにしたこともあり、総来場者数は前年度より大幅に減少しました。しかし各プログラム枠ごとの来場者数は増え、賑やかさのある映画祭となりました。

●「華語特集」をはじめ、3つの特集(第10回)

 10回目の節目となるこの年、プログラムの方針を変えました。キュレーターを依頼して特集を組むことで、関西クィア映画祭としての特徴を出すことにしました。
 メイン特集は、日本ではここでしか見れない「華語特集」。多くの監督達の来日もありました。また第2特集「日本軍『慰安婦』問題を本当に知っていますか?」では、女たちの戦争と平和資料館(wam)からお借りしたパネル展示や、活動をしている人のゲストトークも設け、「性をテーマにした関西クィア映画祭」にとっての日本軍「慰安婦」問題について、認識を深めました。さらに、イスラエル大使館の存在感が東京では増している中で開催した第3特集「ピンクウォッシュってなに?」は、セクマイ系の社会運動のあり方に問題提起をする、時代に即した特集となりました。

●セックス!セックス!セックス!特集
〜奪われたセックスを取り戻す2017年・秋〜(第11回)

 以前から字幕作成などで協力してくれていた岸茉利さんにキュレーターをお願いしてセックス特集を開催。また、白人ゲイ男性を主人公に据えたことで強い批判をあびた映画『ストーンウォール』の日本公開にあわせて、ミニ特集「私たちのストーンウォール」も開催。更にミニ特集「不可視化に抗う」では、今の日本で、私たちのコミュニティーで、何が不可視化されているのかを、人種主義や植民地主義の観点から問いかけました。特集外では、セックスワーカーの活動グループSWASHの協力で、『スカーレットロード』の上映も実現しました。
 大阪、京都の2会場ともに、台風の直撃を受けてしまいましたが、なんとか最後まで映画祭を開催することができました。ただ集客の大幅な減少と減収にも繋がりました。
 映画祭本祭以外でも、兵庫クィア上映会やクィアキャンプ、ラミネートパネルでの映画紹介など、新規の取り組みも行いました。

●特集 ろう×セクマイ映画があつい!(第12回)

 Deaf LGBTQ Centerの協力も頂いた国内初の「ろう×セクマイ映画」の特集は、多くの来場者で盛り上がりました。特集のために、実行委員会内での学習会をしたり、ろう者も映画祭を楽しんでもらえるようにマニュアルを作るなどの準備過程は、実行委員1人1人にとっても沢山の学びの機会となりました。また、特集作品に加えて、多くの日本作品の監督・出演者らの来場も頂き、沢山のゲストトークを持つことができました。映画祭の公式カタログも作成し、映画祭らしい映画祭にできました。
 各自の経済状況に応じて購入価格を選べる「サポートパス」も初めて導入しました。

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