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No Pride In The Occupation

第4回関西クィア映画祭の終了後に、Jさんから映画祭実行委員会にメールが届きました。そのメールは、映画祭会場のヘップホールの壁に掲示されていたガザ攻撃に抗議するポスター「No Pride In The Occupation」についてのものでした。ここに、Jさんの許可の元でJさんのメールと、それへの映画祭からの返信を掲載します。


♦Jさんへの返信♦

Jさんへ

私は、関西クィア映画祭のひびのまことです。ヘップホールでお話をしました。
関西クィア映画祭の代表として、また関西クィア映画祭の「パレスチナ連帯プロジェクト」のメンバーとして、このメールを書いています。

まず始めに、映画祭にお越しいただき本当にありがとうございました。そしてまた、Jさんのお考えを私たちに伝えていただき、ありがとうございました。私たちと話したり、私たちにメールを書いたりすることのために時間を割いていただいたことに、心から感謝します。

「No Pride In The Occupation」の4枚の掲示は、私のものです。私がそれらを書いて、自分で掲示しました。それを映画祭の実行委員会が承認しました。
掲示文は正確には以下の通りです。

追悼
No Pride In The Occupation
性を理由とした暴力がなくなるまで。
性に関わりなく人の命を奪う
戦争と占領がなくなるまで。
イスラエルによる、今も続いている、ガザ地区への
侵攻・占領・封鎖に抗議します。
ひびの まこと

英語にすると:

MOURNING
No Pride In The Occupation
Till the time when there would be no violence by reason of one's gender, sex or sexuality.
Till the time when there would be no war and no occupation which kill one's life regardless of one's gender, sex or sexuality.
I protest against Israeli still continuing invasion, occupation and blockade to Gaza area.
Hibino Makoto

 この「No Pride In The Occupation」というスローガンは、イスラエルのクィア&反占領の団体である「ブラックランドリー」が使っていたスローガンから借りています。
 

■0■「反ユダヤ主義」には反対です

 まず始めに、誤解を避けるために、確認しておきます。
 日本にいるとなかなか分かりませんが、過去のヨーロッパだけではなく現在も世界には「ユダヤ差別/反ユダヤ主義」があるのは事実ですし、私はそれに反対です。
 しかし「反ユダヤ主義」が今もあるという事実は、イスラエル政府によるパレスチナへの侵略・占領を肯定/容認する理由にはなりません。私は、「反ユダヤ主義」に反対するのと全く同じ理由によって、イスラエルによるパレスチナへの侵攻と占領に反対しています。

 以下、頂いたメールに即したレスになります。
 

■1■「ガザからイスラエルに発射される数千のミサイル」について

The issue of human right was stressed if that is the case why wasn’t there a poster protesting the thousands of missiles sent from Gaza to Israel in recent years?

 ガザ地区から複数のミサイルが発射されているのは事実です。しかしミサイルとイスラエル軍の行動とを並列して扱うことは、圧倒的に強大な軍事力によってイスラエル政府がパレスチナを一方的かつ違法に、侵攻・占領・封鎖している(し続けてきた)という事実を不可視化する、不適切な描写だと思います。
 そもそも、イスラエルの建国自体が、現にパレスチナに住んでいる人達を軍事力によって追い出すことによって行われました。この時に難民となった人達は、まだ自分の家に帰ることが出来ていません。
 また1967年以降は、ガザ地区と西岸地区をも、イスラエル政府が軍事的に占領し続けてきました。長く続く占領の中で、パレスチナ人は自分たちの土地を自由に移動する権利すら奪われ、不当に逮捕され、家屋を破壊され、軍の支配下での生活を余儀なくされています。国連の安保理ですら「占領地からのイスラエル軍の撤退」を明確に決議しています(安保理決議242号 1967年11月22日)。
 また2005年にガザ地区からイスラエル軍は撤退しましたが、現在までガザ地区はイスラエル軍によって封鎖されています。しかもこの年始年末の攻撃に明らかな通り、イスラエル軍は自由にガザを軍事的に攻撃してきました。ガザ地区の占領状態は、実際には現在も続いているのです。
 さらに、イスラエル政府はパレスチナ占領地において入植地を建設し続けています。この入植政策は、オスロ合意以降も止むことはなく続いており、今でも現在進行形でパレスチナ人の土地が奪われ続けているのです。国連安保理決議465号(1980年3月1日)でも「かかる占領地に自国民と新移民の一部を入植させるイスラエルの政策と措置は,戦時における文民の保護に関するジュネーヴ第四条約に対する重大な違反であり,また,包括的,公正かつ永続的中東和平達成にとって重大な障害となっている」と明確に非難され、「イスラエル政府及び国民に対し,このような措置を中止すること,既存の入植地を撤去すること」が要請されています。
 更に、イスラエル政府が占領地に建設している「分離壁」は、あまりに大規模かつ非人間的なものであるため、国際的に「アパルトヘイト・ウォール」とも呼ばれて非難されています。パレスチナ人の土地に勝手に巨大な壁を創り、巨大な監獄を創るようなことが行われているのです。国連総会も「国際法の規定に違反する」として壁の建設の中止と撤去を求める決議を行い(2003年10月21日・賛成-日本含む144/反対4/棄権12)、国際司法裁判所も壁の建設を違法とする勧告的意見(2004年7月9日)を出しています。
 更に、イスラエル軍はこれまでにも、虐殺などの戦争犯罪を犯してきました。今回のガザ攻撃では、700人以上の一般市民が避難していた国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の本部を攻撃することさえしています。
 これに敢えて付け加えるなら、パレスチナ自治政府(民主的な選挙によって正当に選ばれたハマス政権のことです)によって軍事的に占領されている場所は存在しません。もちろん、パレスチナ自治政府によって創られている入植地も壁も、存在しません。
 つまり、最も基本的な事実として、イスラエル政府は、何十年にもわたって継続して、一方的に、違法に、パレスチナを軍事的に侵攻・占領・封鎖し続けているのです。そもそもの関係のあり方が対等ではないのです。
 ベトナム戦争やイラク戦争での侵略者米軍への闘いや、世界中の反植民地独立闘争のことを思い出して下さい。少なくとも一般的な問題として言うなら、こういったイスラエル政府の占領が続きパレスチナ人の生活そのものが脅かされている状況の下で、被占領者であるパレスチナ人は、イスラエル政府に対して武装して抵抗運動を行う権利があります。
 個別ガザから発射されるミサイルについて言うなら、私自身はミサイル発射を積極的に支持はしません。いかなる理由によってであれ、人が死傷する事は避けたいと思うからです。しかし、上に書いた通り、イスラエルによる侵略と占領こそが問題の主たる原因であるという事実を踏まえれば、まず最も重点的に批判されるべきはイスラエル政府の侵略と占領です。イスラエル政府の行動と、ガザからのミサイルとを並べて同じように批判することは、関係の非対称性を不可視可し、結果としてイスラエル政府の一方的な侵攻と占領に加担することになります。
 

■2■Jさんの意見を書いたポスターについて

I also asked if I could bring a poster expressing my opinion; first I was told if I put up a poster he would put up more posters, then after pressing the point I was told that it needed to be decided by a committee. Since the festival was only a few more days that is the same as a “no” answer.

 私自身の書いたポスターも、映画祭初日に現物を映画祭会場に持参し、実行委員会の確認を経て掲示されました。Jさんに対してもそれと同じ手順を求めているのであり、特に問題があるとは思いません。
 

■3■パレスチナにおけるLGBTへの差別

Perhaps more appropriate for a queer film festival and most definitely a human rights issue that is relevant to the Kansai LGBTwould be a poster to inform the audience about LGBT Palestinians who not only face social discrimination but very real physical fear due to their sexuality from their own society. In fact Palestinian gays have come to Israel to escape persecution and even death.
As an Israeli I find it ironic that Israel, the ONLY country in the Middle East with a visible active gay community that is protected under the law is portrayed as an abuser of human rights at a queer film festival!

 パレスチナ社会においてLGBTへの差別や暴力があるという事については、Jさんが書かれている通りだと思います。私が2002年にパレスチナ/イスラエルに行った時にも、「パレスチナの村ではレズビアンが村人に殺された」という話を複数の異なる立場の人達から聞きました。2006年に「京都★ヘンナニジイロ祭」で上映したドキュメンタリー映画「ガーデン」では、パレスチナからイスラエルに逃げてきたゲイの少年が登場します。
 もちろんこういった差別や暴力に、私も反対です。私がパレスチナ/イスラエルの問題について日本で話をする時には、例外なくこの話もしてきました。今回のポスターにおいて「性を理由とした暴力がなくなるまで」と書いているのは、この問題を含んでいます。
 イスラエル政府を批判する人達の中には「イスラエル=悪/パレスチナ=善」という単純な構図を好む人もいるかもしれませんが、私はそういう単純化したものの見方にこそ反対です。いくらイスラエル政府による占領が大きな問題で緊急の課題だからといって、実際にパレスチナ社会の中に問題があるという事実に、目をつぶるべきではありません。パレスチナ社会の中にある同性関係嫌悪(ホモフォビア)を無視することは、結果として「マイノリティーの中のマジョリティー(パレスチナ社会の中の異性愛主義)」に加担することになる、不適切な態度です。また、「サバイバー支援」という観点からみても、そういう態度は「支援者にとって都合のいい被害者像」をパレスチナの人々に強いることになり、不適切です。
 例えば米国には多数のヘイトクライム(憎悪犯罪)があり、LGBTが殺される事件も起きている事を私たちは知っています。しかしだからと言って、そのことを理由に米国人一般や米国の文化・キリスト教・米国政府を私たちは否定したり、アンチ米国になる訳ではありません。それはあまりに雑な一般化だからです。同様に、パレスチナの社会の中に同性関係嫌悪や性別二元主義などの点で問題があるという事実を認めたとしても、それは「反パレスチナ」を意味する訳ではありませんし、また意味してはなりません。(更に、イスラエル政府の政策の不当性や問題点を認めたとしても、それがユダヤを否定することにはならないし、またそうなってはなりません。)
 同性関係嫌悪(ホモフォビア)や性別二元主義は、パレスチナにも米国にも、日本にもイスラエルにも、(おそらく)世界中のどんな文化や宗教の中にもあります。それは第一義的には、そこに暮らす当事者達が自分たちの社会をより良くしていく取り組みをしていく中で、改善されるべき問題です。特に日本などの先進国の人間が他国の文化の内部にある問題点を指摘するときは、それが力を持った外国からの圧力や文化的な侵略にならないように慎重にする必要があります。この点で、明らかに他者への侵害行為を継続して行っているイスラエル政府を批判するときの方法とは、異なったアプローチになる訳です。
 そして更に、もし本当にパレスチナのLGBTの人権を守ろうとするのであれば、パレスチナ社会の中の同性関係嫌悪や性別二元主義だけに言及するのは不十分です。パレスチナのLGBTは、LGBTではないパレスチナ人と同様に、たった今もイスラエル政府による侵攻や占領・封鎖によって生活と生命を脅かされています。もし本当にパレスチナ人のLGBTの人権のことを考えるのであれば、イスラエル政府による侵攻・占領・封鎖に反対することは必要不可欠のことです。

 Jさんが書いている通り、イスラエルには可視的なゲイコミュニティーやLGBTの運動があり、一定の法的な保護もあるようです。日本と比べてもイスラエルでは、LGBTの権利に限らず、人権や民主主義が「パレスチナ人以外には」かなり保障されているという印象を私は持っています(例えば、男女平等は日本よりも進んでいる印象があります。また、今回のガザ侵攻に対してもそれに反対するデモには万単位のイスラエルの人が参加しました。今の日本では一万人を超えるデモはほとんどありません。人口比で考えると、本当に多数のイスラエルの人たちが具体的に戦争に反対しています)。LGBTを法的に保護しているイスラエル政府が、様々な人権保障にも取り組んでいるイスラエル政府が、その同じ手で、パレスチナ人を差別し、国際法にも反するパレスチナへの侵攻・占領を続けていることは、皮肉としか言いようがありません。
 

■4■映画祭には何が相応しいか

My point is simple: Was the poster appropriate? I think not. This is simply outside the parameters of a queer film festival.

 パレスチナ/イスラエル関連では、関西クィア映画祭では、これまで、以下のような企画を行って来ました。
 
第3回関西クィア映画祭(2007年7月)
 祖父母がイスラエル建国運動に参加したという監督が、イスラエル人とパレスチナ人との同性カップルを記録したドキュメンタリー映画「0メートルの隔たり」の上映と、ひびのによるイスラエル/パレスチナ問題の解説。
「ナクバから60年〜イスラエルによる占領にも、ホモフォビアにも、反対するために」(2008年8月)
  映画「0メートルの隔たり」の上映と、ヨルダンの留学生のお話など
 
 こういった取り組みを経て、イスラエル政府による侵攻や占領がいかにパレスチナ人のLGBTの生活と人権を脅かしているか、また占領について語るだけではパレスチナのLGBTにとっては不十分であること、などを学んできました。私のポスターは、そういった取り組みの延長線上にあるものだと思っています。

 また私は、「LGBTコミュニティー内部の多数派」の関心事だけが「LGBTの問題」だと見なされることが多いという「いつもの出来事」とは異なる現実を創りたいとも思ってきました。もしLGBTと言うのであれば、そこには障害者のLGBTも、ホームレスのLGBTもいます。だからこそ「障害者」や「ホームレス」の人権問題を扱うことは、「LGBTの問題」として扱う範囲内のことです。しかし残念なことに、例えば「住むところのある健全者のLGBT」という、社会的には多数派でマジョリティーの位置にあるLGBTの人の生活に直接関わる問題だけがLGBTの問題であるかのように扱われる傾向があるのです。関西クィア映画祭では、障害者をテーマにした映画も積極的に上映していますし、ホームレスをテーマにした映画を上映したこともあります。そういった、本当に様々なテーマを扱った映画を上映してきたことこそが関西クィア映画祭の魅力です。そのことは会の規約にも、以下のように記載されています。(映画祭の趣旨として5項目挙げられているもののうちの一つです)  

 ・LGBTと一口に言っても、必ずしも同じような状況に置かれている訳ではなく、民族、障害、世代、性別などによって違いがあることを知り、性的少数者の内部にも様々な力関係や差別があることを学ぶ。
第4回関西クィア映画祭実行委員会規約 第3条(趣旨)第4項)

 実際、「私たちの生活」は、様々な社会的な問題が重なったところに成立しています。映画というのはそういった「複雑さ」を消し去って「単純化したLGBT」の姿を描くのではなく、むしろ逆に、複数の問題が重層的に重なり合っている現実の中でたくましくが生きる人の姿を描くことで、表現としての豊かさを獲得しているとは言えないでしょうか。

 関西クィア映画祭では、できるだけいろいろな国や地域の映画を上映していきたいと考えてきました。だからこそイスラエル/パレスチナの問題を含む映画の上映もありました。そして、たった今も、パレスチナのLGBTはイスラエル軍の侵攻・占領や封鎖といった暴力にさらされ続けています。実際にイスラエル軍によって多数のLGBTが生命や身体が危機にさらされている時に、イスラエル軍の侵攻を非難する掲示を行うことが映画祭の場にふさわしくないとは、私は全く思いません。
 Jさんのような考え方をされる方がおられることは承知していますが、それは残念ですが私たちの考え方とは異なっています。
 

■5■今後の取り組み

 英語は、Jさんにとっても第一言語ではないのではないかと思うのですが、それにも関わらず丁重にコミュニケーションのために英語でメールをお送りいただけたことに、お礼を言います。ただ、映画祭の運営は主に音声日本語で行っており、Jさんには大変申し訳ないのですが、これ以上英語でのコミュニケーションを行うことは困難です。今後英語でメールを頂いても、お返事できないこともあるかと思いますが、ご容赦下さい。
 関西クィア映画祭としては、今後も「イスラエルによる占領にも、それがどこの場所のものであっても同性関係嫌悪にも反対する」「パレスチナのLGBTの人権を擁護する」という立場から、継続して上映会などを開催していきます。5月にも京都で上映会を開催する予定です。日本語の企画になると思いますが、もしよろしければ、是非ご参加下さい。

お返事が遅れましたこと、並びに長文のお返事になってしまったこと、お許し下さい。
今後とも、関西クィア映画祭をどうぞよろしくお願いいたします。

ひびの まこと
(関西クィア映画祭)

追伸:私が2002年にパレスチナ/イスラエルに行って国際連帯運動(ISM)に参加し、バラタ難民キャンプでイスラエル軍に身柄拘束され、テルアビブでのプライドパレードにも参加し、最終的に国外退去となった経緯やその時に考えたことなどを以下に掲載しています。本当は映画祭会場で配布する予定でしたが、映画祭準備が多忙で印刷できなかったテキストです。英語版も日本語版もありますので、よければお読み下さい。

たとえそこがどこであっても
その他の英語のテキスト
日本語のテキスト


■以下、参考資料や関連リンクです。

関西クィア映画祭 実行委員会 Kansai Queer Film Festival Organizing Committee
http://kansai-qff.org/