ノー・オーディナリー・マン
ノー・オーディナリー・マン
No Ordinary Man
20世紀半ばに、アメリカで活躍したジャズミュージシャン、ビリー・ティプトン。1989年の死後に「実は女性だった」とメディアにアウティングされた彼を、きちんと「男性」として歴史に刻み直したいと、現在を生きるたくさんのトランスジェンダー当事者が集まった。
過去に埋もれたビリーの物語を発掘すると同時に、現在のトランスの語りを記録に残そうとする過程の中で、見えてくるのは、30年経っても、「社会はあまり変わっていないんだ」ということ。シスジェンダー中心の社会においてトランスとして生きる経験は、今も昔も重なる部分が多い。
だが一方で、この映画は「けれども時代は確実に変わってるんだ」という希望の象徴でもある。孤独だったビリーと、作中に登場するたくさんのトランスの表現者(役者、ミュージシャン、作家、活動家、映画監督etc)の対比を見れば明らかだ。
まだまだ問題は山積みだ。
でも、私たちは確実に時代を変えてきた。
この映画がその証拠だ。
そんなメッセージを感じる作品である。
また、ビリーが白人であったことを見逃さないのも、この作品の注目すべき点。
なぜ白人のビリーの物語を描くにあたって、監督は、黒人の役者に声をかけたのか。その疑問について語るシーンがある。自分の白人特権に向き合わなければいけない、という監督の姿勢の現れではないのだろうか。自分が生きている世界から見える景色だけでは、描けていないものがあるという意識があったのではないだろうか。まだまだ不十分ではあるが、特権ゆえの無知さを自覚し行動しようとする監督の姿勢を、「日本人」は最低限見習うべきだと思う。
たくさんのテーマを取り上げていて、ついていくのに精一杯かもしれないが、ぜひ日本の状況のことも考えながら、見てほしい。
(文責:西木久実)
監督から
アシュリン・チンイー監督 © Samuel Engelking
チェイス・ジョイント監督 © Tanja Tiziana
予告編
スチール
Marquise Vilson
スーザン・ストライカー
Stephan Pennington
ケイト・ボーンスタイン
ザッカリー・ドラッカー
作品基本情報
邦題
ノー・オーディナリー・マン
英語題・原題
No Ordinary Man
監督
アシュリン・チンイー、チェイス・ジョイント
上映時間
83分
制作年
2020年
制作国
カナダ
言語
英語
字幕
日本語字幕あり / 英語字幕なし No English subtitles
(字幕協力:NPO法人レインボー・リール東京)
Webサイト
https://www.parabolafilms.ca/no-ordinary-man/
主な上映歴・受賞歴
https://rainbowreeltokyo.com/2021web/program_jp/no-ordinary-man/