コロナ禍における関西クィア映画祭について(声明)

9/18(土)から開催予定の「第14回関西クィア映画祭2021」まで、あと1週間。コロナ禍が収束せず、「緊急事態宣言」が出ている現状で、本当に映画祭を開催するのか?そして、なぜ? そんな疑問にお答えします。


【目次】


【1】映画祭の中止、延期の判断

  • 現状でのイベントの開催は、リスクを伴うことを避けられません。新型コロナウィルスによる感染症について、こうすれば「絶対に安全/危険」という基準はなく、どこまで行っても相対的判断、程度問題になります。
  • 各個人としてのリスク判断は、各個人がイベントに参加する/参加しない、という形で行われます。
  • どの程度のリスクを社会的に受容するかという判断は、社会の様々な層からの要請や医療体制などを総合的に判断して、誰かが行う必要があります。そして、そのような仕事をするべき組織として、行政府が存在しています。
  • 今回、映画祭実行委員会は、基本的に行政の判断を尊重することにしました。行政からイベントの中止要請が行われた場合には、映画祭を中止します。イベントの開催について制限の要請があった場合には、その制限に従います。

  • 「緊急事態宣言」下における大阪府と京都府からの要請に準拠し、「定員の50%・21時まで」の条件の下で、感染対策を徹底して、対面での映画祭を開催します。
    (具体的には、「大阪オールナイト」と「大阪レイトショー(21時10分開場の1枠)」は中止、それ以外は開催となります。トークも、可能なものは対面で実施します。)
  • 前売券の発売日
    前売券は、予定通り9月11日から発売します。

【2】コロナ禍での映画祭についての基本的な考え方

なぜあえて対面での映画祭が必要なのか

 端的には、孤立しがちなマイノリティーにこそ、実際に人と出会って仲間と繋がる場がいっそう必要だからです。
 社会的マイノリティーは、コロナ禍の影響をより大きく受けます。
 良好な家族関係やマジョリティーのコミュニティーに属している人たちに比べ、特に、一人暮らしだったり、家族関係が良好ではない中で暮らしている性的マイノリティー一人一人にとっては、「ステイホーム」がもたらす被害は、極めて大きくなります。「家の中」が必ずしも皆にとって安全な訳ではありません。
 そもそも、関西クィア映画祭をはじめとする様々なコミュニティーのイベントは、孤立しがちなマイノリティーが仲間と出会える安全な居場所として始まった歴史があります。夜のお店(バーやクラブなど)も閉まっている状況で、人との繋がり、社会との繋がりを絶たれている人は多いのではないでしょうか。外出時は「家族や普段行動をともにしている仲間と少人数で」との要請が行政からされていますが、そもそもそのような家族や仲間を作りにくいからこそ、社会的マイノリティーなのです。
 コロナ禍だからといって、性的マイノリティーが受ける生活上の困難さは、改善したりはしません。毎日のマイクロアグレッションは、コロナ禍だからといって待ってはくれません。生活していく上での元々の困難があったところに、更に加えて、コロナ禍で仲間と繋がることが困難になっています。
 いまはパートナーも友達も何人も居て暮らしているあなたも、若かった頃、一人暮らしの時、パートナーが居なかった時、コミュニティーと出会う前、具体的な『仲間』との繋がりを感じられなかった時代の自分のことを思い出して下さい。余裕がない時にこそ、人と出会いつながれる場所としてのコミュニティーは、特に必要です。
 ただ単に映像表現を見るだけなら、配信でも十分です。しかし、同じ空間を共有して『仲間』の存在を感じることの力ははかりしれない—そんな実感を、映画祭を開催してきた私たちは持っています。
 まさにそのような厳しい社会状況だからこそ、一層、実際に仲間と出会って繋がり合える場の必要性が高まっていると私たちは思います。リスクが伴うことが分かっていても、それでもあえて対面での映画祭の開催を目指すのには、このような切実な理由と目的があります。


誰にとっての「不要不急」か

 現在「不要不急の外出・移動」の自粛が、行政から要請されています。では何が「不要不急」なのか。そのことを考える時にも、社会的な力関係が反映しがちです。多くの人が求めているもの、社会の多数派が欲しいもの、資本や権力を持つものがやりたい事は、「どうしても必要なこと」と見なされやすい。それに比べて社会的な少数派が必要とすることは、多数派によって「不要不急だ」と見なされてしまう。そういう圧力にさらされ続けることで、自分自身でも、自分が必要とするものを「不要不急だ」と思い込んで諦めてしまう。何が不要不急かは、人によっても、社会的に置かれる状況によっても、異なっているという事実を想起して下さい。
 コロナ禍でもBLMデモが開催されたように、構造的差別を受ける社会的マイノリティーの活動に対しては、その必要性をちゃんと認めること、その活動を「どうしても必要な活動だ」と認識する姿勢も必要です。


単純に「開催か中止か」ではなく、「よりリスクの少ない開催」を目指す

 「危険なんだからイベントは中止に」と短絡化したり、逆にイベントをやりたいばかりに「コロナはただの風邪だ」と新型コロナウィルスによる感染症の危険性を軽視するような態度に、私たちは反対です。どちらも、現実と向き合うことから逃げています。
 今年の映画祭は、感染リスクを減らすため、従来の規模での開催は断念しました。会期を例年の半分にし、席数も減らし、まず規模を例年の半分以下にしました(オールナイトも実施して満席でも最大のべ706席)。国境を越えるゲスト招聘も行いません。大阪—京都間の移動を減らすため、全会場共通のパスは廃止しました。
 映画祭史上、最もコンパクトな形です。加えて、次項に述べる感染対策も実施します。


【3】「よりリスクの少ない開催」のために(感染対策)

  • 新型コロナウィルスによる感染症は、死の危険がある重大な感染症です。「コロナはただの風邪」などのようにその危険性を軽視する態度は、私たちのコミュニティーと仲間の命と健康を危険にさらす恐れさえある、不適切な態度だと考えます。
  • 孤立しがちな社会的マイノリティーはコロナ禍の影響を受けやすい、と先に述べました。もし新型コロナウィルスに感染した時の被害もまた、より重大なものになる可能性があります。身の回りの世話をする人、サポートしてくれる家族、そういった繋がりを持っているかどうか。一人で「自宅療養」を強いられる可能性。そういった面から考えても、私たちは「フツウ」以上に、一層感染対策に真面目に取り組む必要があります。
  • セクマイコミュニティー、特にゲイコミュニティーは、HIV/AIDSという感染症と向き合ってきた歴史があります。セックスには感染リスクがあるという事実を認め、「リスクがあるからセックスをするな」と単純化するのではなく、そのリスクの中でもセックスする方法として「セイファーセックス」という考え方を作りました。新型コロナウィルスによる感染症とHIV/AIDSとを同列に扱っていいのかどうか、私たちも確信はありません。しかし、物事を単純化して危機を煽らない、感染症をなめてかからない、面倒でも真面目に感染対策をする、そして諦めない—そういった姿勢を、私たちも受け継いでいきたいと思います。

新型コロナウィルスの感染のリスクを下げるために、実行委員会として、以下の対策を講じます。


主催者側から来場者に感染させないために、実行委員/当日スタッフ/ゲスト出演者などは、以下を実施します

  • 不織布マスク(鼻の部分にワイヤー入り)を着用。(ウレタンマスクや布マスクは不可)
  • 自身での健康管理と、自身が感染(発症)していないことを確認するために、映画祭の2週間前の9/4(土)から「体調・行動記録シート」を記入
  • 映画祭直前にPCR検査を実施
  • そのほか、業界団体の作成している業種別ガイドラインに準拠して開催します。

一般来場者(お客さん)へのお願い

  • 体調が優れない場合は、無理をせず次の機会にお越しください。今年はオンラインでも2作品を視聴できます。またよければ、実行委員会でも使用している「体調・行動記録シート」も自由にご活用ください。
  • 会場では、不織布マスク(鼻の部分にワイヤー入り)の着用をお願いします。不織布マスク以外の方には、会場でお渡しする不織布マスクにつけ替えて頂きます。
    (不織布マスクの着用が困難な方もおられます。不織布以外のマスクでも感染予防効果があるマスクもあります。しかし今年は、個別に丁寧に対応するための実行委員会の力量がなく、一律に杓子定規に「不織布マスクのみ」とすることを、ご容赦ください。)
  • 会場での手指消毒と検温にご協力下さい。
  • 万が一感染者が出た時のクラスター対策を目的として、大阪会場では「大阪コロナ追跡システムへの登録」または「連絡先シートへの記入」をお願いします。
     京都会場では「京都市新型コロナあんしん追跡サービスへの登録」と「連絡先シートへの記入」の両方をお願いします。
    (連絡先シートは会場に設置した回収ポストにご自身で入れていただき、何もなければ映画祭の1ヶ月後に破棄します。)
  • マスク着用を含む感染対策にご協力頂けない場合には、入場をお断りします。

マスクについて

  • 「富岳」のシュミレーション実験(2020年12月)から、マスクの素材によって感染対策の効果に差があることが分かっています。この実験からは、ウレタンマスクや布マスクにも一定の効果があること、そして不織布マスクはそれらより一層の効果があることが分かっています。「よりリスクの少ない開催」のためには、どちらのマスクがより望ましいのか。より効果が高いことが明らかな不織布マスクの着用を、実行委員会としてお願いします。
  • 2021年2月の西村秀一医師の実験では、ウレタンマスクの5um(マイクロメートル)以下の粒子の除去率は1%以下で、ほぼ効果がない、ことも分かっています。参考までに、以下の記事も併せてお読み下さい。
    ▼実験で新事実「ウレタンマスク」の本当のヤバさ(東洋経済オンライン)

私たち自身の健康と仲間やコミュニティーを守るために、可能であれば必要なイベントを開催することと、真面目に感染対策をすることの、両方が必要だと私たちは考えています。
関西クィア映画祭は実行委員会が主催するイベントですが、来場者の皆さんと一緒に作り上げるコミュニティーの場でもあります。コロナ禍の厳しい状況の中で「よりリスクの少ない開催」を実現するためには、実行委員会だけなく、来場者の一人一人のご協力が欠かせません。ぜひ共に、今年の映画祭を成功させましょう。
希望に加担しよう!
今年も映画祭会場でお会いしましょう!

2021年9月11日

「第14回 関西クィア映画祭 2021」実行委員会
たき
ひびのまこと
ふみな
マヨ
ミフユ
桃望
ゆう