艶子 TSUYAKO

▼戦後まもない日本。妻として母として嫁として懸命に働くツヤコ。そんな中、上京するというヨシエから東京で一緒に暮らそうと誘われる。自分の幸せか家族への義務かー。見捨てるには愛し過ぎ、しかし追い求めれば葛藤が邪魔をする。この作品が単なる悲しい話に終わらないのは、ツヤコの恋が時代を越えて受け継がれていくからだろう。だから私たちは観終わったとき本作に「希望」の二文字を見出せるのだ。(よりー)

colori caffe吉田香織さんによるさらに詳しい作品紹介はこちら

上映日時

【大阪】 9/15(日) 19:30開演 (19:10開場)
【京都】 10/6(日) 11:30開演 (11:10開場)

作品情報

艶子 TSUYAKO / TSUYAKO
監督:宮崎 光代 
2011|米国|23 min|関西初上映
音声:日本語
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トレーラー

写真

作品紹介

ロサンゼルスに住む日本人女性監督による女性同士の恋愛を描いた映画が制作され、KICKSTARTERで編集のための資金集めをしていると知ったのは2011年の春だった。KICKSTARTERというのは、新規事業の資金集めの新しい仕組みとしてアメリカなどで盛んになっているウェブサービス<クラウドファンディング>のひとつである。KICKSTARTERサイト内でプロジェクトを紹介する動画を発表し、賛同する個人から資金を集めるというものだ。日本ではまだなじみのないサービスだが、アメリカなどでは数々の魅力のあるプロジェクトが資金集めに成功しプロジェクトを遂行している。
 その映画のタイトルは<TSUYAKO>、監督の名前はMitsuyo Miyazaki、この作品は彼女のUSC (University of South California)の卒業制作ということだ。動画の中で監督は、なぜ自分はいまアメリカにいるのか、そしてその映画を撮るに至った経緯と思いを語った。

 彼女は私と同世代のように見えた。流暢に英語を話す話し振りはとても快活で、フレンドリーな笑顔に親しみやすさを感じた。しかし、笑顔の奥には一本の筋が通っている。自分のやりたいことや、やっていることに一切の迷いがない。そして、まわりの人を巻き込むだけのエネルギーとある種のカリスマ性を備えていた。私はちょっとした興奮を覚えた。自分と同世代の女の子が海を越えたアメリカで夢に向かって邁進している。それだけで彼女を応援すると決めるに十分な理由になった。もちろん、大阪出身だというのも大きい。友達を応援するような気持ちだ。

「高校生の頃アメリカに来たんです。エンターテイメントの世界で成功するという夢を追って。女優をやったり、写真家としてアーティストやミュージシャンを撮ってアメリカ中を回ってました」USCに入ってから学内外の数々のショートフィルムコンペに出品し入選している。動画には彼女の手がけた作品が紹介されていた。完成度は高い。映画に対する期待は否応なく膨らむ。

「2年前のことです。祖母が亡くなって10年目の法事のために大阪に帰ったんです。そのとき、古い箱を見つけたんです。今まで家族の誰も見たことがなかった写真が入っていました。ここでちょっとうちのおばあちゃんについて話しておきたいんですが、彼女は写真を撮るときも絶対笑わない。スカートも履かないし、いつもジーンズか男性物のスラックスを履いてました。ポロシャツ着て、ハンチング帽を被って、ティアドロップのサングラスかけて、かなりファンキーですね。そういうおばあちゃんです。
その箱に入ってた写真の中で1枚、私の目を捉えたものがありました。祖母はある若い女性の隣に座っていました。彼女の視線やしぐさは、その女性との友情を超えた何かを物語っていたんです。それで私は脚本を書こうと決めました。祖母が決して得ることのできなかった自由、あるいは選択を、彼女に与えたかったんです」

 舞台は戦後間もない日本である。嫁ぎ先の意地悪な姑にいびられながらも、幼い二人の子を育て、家業である部品工場で汗まみれになって働く艶子。寡黙な夫。慎ましい生活。過酷な日常だ。そんな日常に、ある日突然昔の恋人が現れる。恋人は、女性だった。赤い口紅を引き、綺麗な洋服を着たかつての恋人。襟の伸びた汗だくのシャツとモンペを履いた自分。数年ぶりの再会。誰にも話すことのない秘密。揺れ動く心情。迫られる選択。みずみずしい映像が映し出す彼女たちの官能的な交わり。オーケストラが奏でる荘厳で凛然とした、そしてどこか物悲しさを湛える美しい音楽。
 本当のことは誰にも分からない。その写真から宮崎監督が読み取った祖母の姿は監督の想像だ。家族の誰もが知りえなかった真実などという類いのものではない。純粋なクリエイションである。そのクリエイションの中で、祖母は女性を愛す女性となり、美しい時間と言葉にすることのない悲しみをある女性と共有する。

「私の母はシングルマザーだったので、祖母は学校から帰って来た私の世話をしてくれる唯一の人でした。彼女はいつも私に言ってました。絶対あきらめたらあかん、と。彼女は私にやりたいことをすべてやらせさせたかったんです。日本を離れてアメリカに来ることもそうです。なぜなら、祖母は家族のために人生を犠牲にしてきたからです。私たちがいま良い生活を送れているのは彼女のおかげです。彼女のサポートや励ましなしには私はここにいないでしょう。だから、祖母には大きな貸しがあるんです」

 KICKSTARTERの30日間のキャンペーンで、目標金額の2倍以上の資金を得た彼女は、出来上がった『TSUYAKO』を引っ提げて世界のあらゆる映画祭に赴き38の賞を獲得した。宮崎光代はいま最も注目されている女性監督の一人である。
 東京国際レズビアン&ゲイ映画祭での上映から1年を経て、ここ関西にも『TSUYAKO』がやってくる。たった23分の短編だ。けれど、その23分の中にどれほどのドラマが息をひそめて陽の当たる日を待ちわびていたのか。ただ生きることだけに必死だった時代のもの言わぬ恋は、現代の私たちに語りかける。
 この作品は、宮崎監督から自由に生きることのできなかったすべての女性たちへ捧げる賛辞である。思いを成し遂げることなく、誰かや何かのために人生を犠牲にしてきた人たちへの追悼であり、そして同時に、現代を生きる我々への希望のエールである。

 どうかみなさんも、関西クィア映画祭の会場に足を運んでみてください。きっとあなたなりの希望をそこに見いだすことでしょう。

吉田香織(colori caffe店主)

関西クィア映画祭2013

★大阪会場 ヘップホール
  2013/9/14 (土) ~16 (月*休)
★京都会場 京大西部講堂 2013/10/4 (金) ~6 (日)

主催

関西クィア映画祭実行委員会
(チームばらいろ)

共催

ヘップホール
HEP FIVE(大阪)

協力

西部講堂連絡協議会(京都)
東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(字幕)
アジアンクィア映画祭(字幕)
大阪アジアン映画祭(字幕)

助成

ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川 Goethe-Institut Villa Kamogawa
(ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川)

後援

スイス大使館 スイス大使館

大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館
大阪・神戸ドイツ連邦共和国
総領事館




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